カラスを知りカラス対策に活かす

コラム２１「VSカラス⑤ 賢さゆえの警戒心～「危険あり」と思わせる～」

この記事を書いたのは

代表取締役　塚原　直樹

博士（農学）

宇都宮大学特任助教

群馬県桐生高校卒業。CrowLab代表取締役。宇都宮大学にて杉田昭栄教授のもと、カラスの音声コミュニケーションの研究に従事し、博士取得。宇都宮大学特任研究員、総合研究大学院大学助教を経て、現在は、宇都宮大学特任助教。カラス研究一筋20年。主な著書にNHK出版『カラスをだます』。

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カラスの賢さ

カラスは賢い。真っ先に思い浮かぶカラスの印象だろう。賢いと認めざるを得ない数々の証拠が、カラスにはある。解剖学的にみると、脳が大きい。前回掲載した写真を見てもらいたい。特に、知的活動をつかさどる大脳に相当する部位が、鶏やカモなどに比べ、顕著に大きい。
驚きの行動も数多く目撃されている。コラム１８で紹介した、食べ物を自身の隠し場所にためる「貯食」に注目すると、一個体が貯食する場所は１００カ所近くに上り、その記憶力たるや、筆者など足元にも及ばない（写真は街頭スピーカーに貯食をするカラス）。また、道路にクルミを置き、自動車にひかせて殻を割り、実を食べるといった行為は、自動車のＣМにも使われ有名だろう。さらに、公園の水道の蛇口をひねって水を飲む、また、水量を調整して水を浴びるという驚嘆に値する行為も目撃されている。ちなみに、蛇口をひねる行為を全てのカラスが行うわけではない。どうやらカラスの賢さにも個体差があるようだ。

賢さの中の穴

さて、このカラスの賢さゆえに、農業現場では対策に苦慮しているだろう。脅しの類いのさまざまな対策品は、それが警戒すべき対象ではないことを見抜き、すぐに慣れてしまう。だが、その一方でこの賢さは対策に利用できる。カラスは賢いゆえに洞察力が高い。周囲を注意深く観察し、つぶさに変化を見つけ、その先にある危険を予見し、安全策をとる。つまり、カラスは「びびり」なのだ。
例えば、ヒトの視線をカラスに向けるだけでカラスは逃げて行く。都会のカラスはヒトが近づいても逃げずにごみをあさり続けるとよく聞くが、立ち止まってじっとカラスを見れば、ごみあさりを止め、電柱など高い場所へと移るので試してみてほしい。普段、近くを通るヒトが何もしないことをカラスは理解している一方で、いつもと違う行動をするヒトがいれば、即座に警戒行動をとるのだ。
このように「何か危険なことがあるのでは」とカラスに思わせることが対策につながる。この高い警戒心を利用した対策は、次回「コラム２２」で紹介したい。

本コラムは、日本農業新聞2024年11月29日号に掲載された内容を転載しております（一部修正している場合があります）。