カラスとヒトとの摩擦 ~なぜ農業現場に飛来するのか~
コラム25「ストップ鳥獣害② カラスの生理・生態を踏まえた対策」
この記事を書いたのは
代表取締役 塚原 直樹
博士(農学)
宇都宮大学特任助教
群馬県桐生高校卒業。CrowLab代表取締役。宇都宮大学にて杉田昭栄教授のもと、カラスの音声コミュニケーションの研究に従事し、博士取得。宇都宮大学特任研究員、総合研究大学院大学助教を経て、現在は、宇都宮大学特任助教。カラス研究一筋20年。主な著書にNHK出版『カラスをだます』。
個人ウェブサイトはこちら生態を無視した既存の対策
既存のカラス対策の多くは効果が一時的だ。それらがカラスの生理・生態を無視しているためだ。例えば、嫌がる臭いでカラスを追い払うという対策品がある。しかし、嗅覚をつかさどる嗅球という脳の部位がカラスは痕跡程度しかない(写真はハシブトガラスとカモの嗅球)。つまりカラスは嗅覚が鈍いといえ、嗅覚を刺激する対策の忌避効果は期待できないだろう。また、ヒトが認識できない超音波を使った対策品がある。しかし、大多数の鳥類はヒトより可聴範囲が狭いことが明らかとなっており、カラスも超音波を認識できない。
「一時的な効果」
ところが、これらも一時的に飛来抑制効果を発揮する。黄色の防鳥網の例を紹介したい。カラスが黄色を嫌うという噂があり、黄色の防鳥網が開発された。ごみ集積所で実際に使うと、カラスが来なくなった。その結果、カラスが黄色を嫌う説は真実味を帯びたが、カラスが黄色を嫌う説は全くの嘘で、飛来抑制効果は一時的であった。
ではなぜ一時的な効果が見られたのか。それは、防鳥網の色がもともと緑色や青色が一般的で、黄色が当時は珍しかったことが原因だろう。カラスは警戒心が強く、目新しい物があるとひとまず近づかないという選択をする。結果、一時的に飛来が減り、効果が現れたようにみえる。嫌がっているわけではないので、いずれは警戒対象からは外れ、それ以降の飛来抑制効果はなくなる。
効果的な対策と工夫
もちろん、防鳥網の物理的な効果は期待できる。ごみ集積所でも正しく使えば荒らされることは少ない。農業現場でも侵入可能な箇所に防鳥網を張れば侵入できないため、最も効果が高い対策と言える。しかし、設置や保守にかかるコストは少なくなく、導入の障壁は高い。一方、前述の嗅覚・聴覚・視覚などの刺激を使った脅しの対策は、簡便で導入しやすい。馴れることを前提に、収穫前や感染症の流行る季節のみ活用する方法もある。この際、さまざまな種類の対策品を1種類ずつ設置し、馴れたら撤去し、次の対策品を置くことがコツだ。変化を与えカラスに用心させることが重要だからだ。
本コラムは、全国農業新聞2025年6月20日号に掲載された内容を転載しております(一部修正している場合があります)。
「コラム26」では圃場における被害軽減対策を紹介します。
カラスの生態をもっと詳しく知りたい方に
CrowLab代表の塚原の著書『カラスをだます』では、身近だけど意外と知られていない、誤解されているカラスの生態や、また身近なもので今すぐできるカラス対策なども紹介してますので、ぜひご覧ください。
この記事を書いたのは
代表取締役 塚原 直樹
博士(農学)
宇都宮大学特任助教
群馬県桐生高校卒業。CrowLab代表取締役。宇都宮大学にて杉田昭栄教授のもと、カラスの音声コミュニケーションの研究に従事し、博士取得。宇都宮大学特任研究員、総合研究大学院大学助教を経て、現在は、宇都宮大学特任助教。カラス研究一筋20年。主な著書にNHK出版『カラスをだます』。
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コラム25「ストップ鳥獣害② カラスの生理・生態を踏まえた対策」
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